「この夜は明るいな」
「……それはちょっとおかしいと思うわ」
「ん? どういうことだ?」
「だって、今夜と言えばいいじゃないの。夜は物ではないわ」
「ああ……確かにそうなるか。じゃあ、こんなのはどうだ?」
「こんなのって……どういうこと?」
「俺は夜の観測者で、たまに起きてはその夜を観測する。観測するならその対象は物だ」
「なるほど。理に適っているわ」
「今夜は明るいというのは客観的にそれを見ているからだ。それはあくまで曖昧な意味しか持たない」
「……その通りね」
「でもやっぱりそれはおかしいのよ」
「……なんでだ」
「あなたは観測者ではないんですもの」
戻
|