知識と日陰とため息




ここは紅魔館の一角。知識の宝物庫、ヴワル図書館。
「はぁ…」
いつものように今日も私のため息が響く場所。
―――違う。

そう、私は珍しくもため息をついていた。

魔理沙から手紙が届いた。
あの白黒でも手紙というものを知っていたのだなぁと思う。こんなもの書いてる時間があれば直
接会ったほうが早いぜとか言いそうなものだが……意外と女の子らしいところもあるものだ。
それはそうとして内容だが、要約すると
『用事ができたんでしばらくの間訪ねることができなくなる。』
という意味の手紙だった。
それがどうした。と思ったのだが、この手紙を読んでからなぜか自然とため息がでるようになっ
てしまった。
あまり認めたくはないが、事実なのだからしかたがない。
「はぁ〜……」
64回目……何で数えているのだろう私は。
ため息をつくと幸せが逃げていくという言葉があったのをふと思い出す。
出るものはしかたがないと思うのだがどうだろう?

こうも症状が酷いと、意外と私は彼女が来るのを楽しみにしていたのだなぁ、と気づかされる。
彼女が最初にここに訪れた時には、それはもう酷い目にあった。
……その次のときも、と付け加えておこうか。
「はぁ〜……」
あの後は、彼女は度々ここに魔導書を借りに……奪いにやってきた。
そのたびに、私が読書中でも話しかけてくるのだ。
邪険にしても無視してもまったく変わることはなかった。
最初のうちはもちろん邪魔に思っていたのだが、一度慣れてしまうと怖いものだ。
今では私は彼女に対して甲斐甲斐しく自らお茶を煎れたりしているのだから。
そんな私を見てリトルが「私の仕事を取らないで下さいよ」とまで言ってきた。
彼女なりの皮肉だったのか、本気でそう思っていたのかは知らないが、言外に『変わりました
ね』と言っているのは間違い無いように思う。
そんなに私は変わったのだろうか?

兎も角、この暇な時間を読書に当ててもいるのだが、なぜか―――つまらない。
来ないなら来ないでそれは静かな読書の時間に戻れるだろう……と思ったのに、頭を回そうとす
るとこのことが出てきてしまう。
「はぁ〜……」
自分から訪ねていってもいいのだが、忙しかったら迷惑なだけであるし、そもそも家にいなかっ
たら意味がない。
かといって探し回るには、私は体力がなさ過ぎる。
やはり待つことしかできないようだ。

「はぁ〜……」
こんなにもどかしい感覚は初めてだ。
こんなもどかしい思いをさせる彼女は今どうしているだろう
あの巫女と一緒にいるだろうか?
それとも霊界の桜で花見でもしているだろうか。


……よし、決めた。
だったら、今度来た時には思いっきり引っ張りまわしてやろう。
私を放っておいたことを後悔させるくらい引っ張りまわしてやろう。
そして、捕まえてやる。

ため息は67回で終わり。
これ以上幸せは逃がさない。