Night −wish−
願いはありませんか?
私に叶えられることならば叶えてさし上げましょう。
私は一冊の魔導書です。
といっても、呪とか召喚術は書かれていません。
書かれていない代わりに私には意思があり、一つの能力があります。
それは、ひとの願いを叶えてあげること。
そう、様々なひとの願いを叶えてきました。
とはいっても、私にそこまでつよいちからはありませんからほんの些細なことしか叶えられませ
ん。
それでも皆さん―――願いを叶えてあげた人たちは喜んでくれていました。
そう、例えば―――
童話の主人公と同じ名前をした少女には、可愛い可愛い人形を。
彼女は「こんな人形、欲しかったの」と満面の笑みで答えてくれました。
綺麗な金髪をした魔法使いの少女には、きらきら輝く星の欠片を。
彼女は「これで新しい魔法は完成だ」と元気に答えてくれました。
図書館で司書をしているという魔女には、金髪の魔法使いの姿をした人形を。
彼女は「せっかくだから貰っておくわ」と頬を赤らめながら答えてくれました。
そして今、私は小さな少女に開かれています。
肩で切りそろえられた金色の髪には赤いリボン。
パッチリとした赤い目に小さく牙が覗く口元。
妖怪の少女だろうと思います。
「こんばんは、お嬢ちゃん」
「わ、喋った!珍しい!」
うーん、初々しい反応です。
最近は魔法使いの人にばかり渡ってましたから驚いてもらえなくて少し残念だったのですね。
と、それはどうでもいいですね。
「早速ですが、何か叶えて欲しい願いはありませんか?」
「叶えて欲しいって……お願いしたらそれが叶うってこと?」
「そうですよ。あ、でもあんまりすごい願いは叶えられませんよ?」
「うーん……今日はさっきご飯食べたばっかりだからおなかも減って無いし……願いっていう願
い無いなぁ」
それはちょっと困りました。
願いを叶えないまま閉じられたら私、欲求不満になってしまいます。
すごく個人的なことなんですけど結構重要なんです。
叶えられる願いの範囲は私の調子によりますから。
こうなったら小さなことでもいいから叶えさせてもらいましょう。
「よーく考えて下さい。ほんの小さなことでもいいんですよ?」
「うーん、小さなことでもかぁ……それじゃあ」
「いつまでも昼と共に、夜がこのままでありますように」
私は一冊の魔導書です。
といっても、呪とか召喚術は書かれていません。
書かれていない代わりに私には意思があり、一つの能力があります。
それは、ひとの願いを叶えてあげること。
でも、結局彼女の願いは叶えて上げられませんでした。
私には、それはどう叶えればいいものやら判りませんでしたから。
このまま自然に時が進んでいれば、それは叶えつづけられていくのです。
すでに叶えられている願いを叶えるなんて無理です。
後で、彼女は宵闇の妖怪だと聞きました。
宵闇は夜の欠片です。
つまりは……もしかしたら、もしかしたらですが……
あれは夜の願いだったのでしょうか?
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