このヴワル図書館にリトルという小悪魔がいるのは知ってるわね?
でも、彼女には2つの顔があることをあなたはご存知かしら?
一つはここの図書館の司書補として私を助けてくれる、過ぎるほどに真面目な顔。
彼女がいるおかげで私は大分助かってるわ。
どうも本人はそう思ってないようだけど。
私では力仕事は無理があるし、あんまり図書館の中を歩きまわってると喘息の発作がね……掃
除ぐらいするべきかしら?
まあ、その掃除も私ではできないから彼女の仕事なのだけど。
それで肝心のもう一つの顔なのだけれど……私はあの子は好きじゃないわ。
ことあるごとに私に悪戯をしかけてくるのよ。
読書中の私の背中に虫を入れたり、私が花瓶に挿しておいた花をいつのまにか魔界製の食肉植
物にしてたり、私のお茶菓子を激辛のものにこっそりと取り替えたり……アレを食べた後は口
から火が出るような感じだったわ。
それにそのあとで……やめましょう、あんなこと思い出したくもないわ。
あと酷かったのはあれね、本でドミノ倒しをしてたから酷く叱っておいたのよ。
まあその時は私も先日のお茶菓子のことで気が立ってたから……あとで考えるとやりすぎたと
思ったわ。
それでその次の日、私がテーブルでいつものように紅茶を飲みながら読書していたの……紅茶
といってもレミィのとは別物よ?
そしたら辺りがいきなり暗くなったのよ。
あれ?と思う暇もなく私は後ろから凄く重いものに押しつぶされたわ。
何がなんだかわからないまま、その重いものからやっとの思いで這い出して周りを見ると、本
棚が綺麗に私に向かって倒れてたの。
一気に頭に血が上ってあの子を問い詰めたわ。
昨日本で遊ぶなと言ったばかりでしょう、って。
そしたらなんていったと思う?
たしかに本で遊ぶなとはいわれたけど、本棚でドミノ倒しをするなとは言われてないのよ。
なんて笑顔で返してきたのよ。
もちろんそのあとは思いっきりお仕置きしてやったわ。
今日もパチュリー様に叱られちゃった。
叱られただけじゃなくて色々と虐められたけど。
ただわたしは常日頃から暗い図書館で本ばかり読んでいるあの少女に、運動をしてほしかった
だけなのになぁ……
そりゃあ、やってて私が楽しいことを考えたけど……実際あれは相当な運動になってたようだ
し、多少は感謝されてもいいことだと思ったんだけどなぁ。
うーん、駄目だわ。今の姿で考えても何がいけなかったのか何一つわかんない。
こういう考えることをするならやっぱりあっちじゃないとムリね。
あれは怒りますよねぇ……
当たり前のことでした。
どうもあちらになるといけません。
考え方が子供そのものになってしまうのですよね……あまりあちらの状態で長くいるとこちら
に戻りづらいですし、しばらくあちらになるのはやめておきましょう。
でも魔法を行使するのはあちらの方が凄く楽なのですよね……こちらでも軽い魔法は十分使え
るんですけど、召喚や自然付加や変更、封印や結界、合成などの大きな魔法を使うとなると、
あちらでないと辛くて仕方がありません。
これは子供の神秘性というものが関係あるんでしょうか……?
あと、あっちになると凄く気が楽なんですよね。
いや、自分の好きなようにやっているのだから当たり前なんですけど。
……実際今もすごくすっきりしてますし……いやいや、いけません。
人様に迷惑をかけてるのにそれですっきりするなんて……
―――他の悪魔から見れば悪魔なのにこんなことを考えるのはおかしいのでしょうね。
小心者と罵られてもしかたがありませんか。
ふう、もやもやと考えつづけていても仕方がありませんし、とりあえず片付けましょう。
壁から床から枯れた蔦でいっぱいですし。
バラバラになってしまったユッグの欠片も辺りに散らばってますし……片付けは私がやること
になるのだからもう少しおとなしいやりかたをしてくれれば良かったのに……
ああ、自分で自分のやったことに対して愚痴を言ってるってなんて滑稽なんでしょうか。
――――――それがわかってても、やっぱりやめることはできないのよね、ふふ
あの図書館に不健康な魔女とちょっといかれた悪魔が住んでるのは知ってるな?
よし、今日はあいつらのことだ。
私は仕事柄ちょくちょくあいつ等のところにいくわけだが……なに?どこが仕事だって?
いや、あれはちゃんとした仕事だぜ。
魔法使いは使える魔法を増やしたり、その成功率を上げるためにいろいろやるのが仕事なんだ
よ。
だからあそこにある本を読むのは仕事だよ。
すぐに実践したいから家に持って帰ってるだけ。
っと、そういう話じゃなかったな。
あの悪魔は便利なもんだよな。
黙っていてもお茶汲みしてくれるし、掃除もサボることなくやってくれる。
あんなメイドみたいな悪魔ならうちにも一匹欲しいぜ。
あー、でもあの子悪魔は要らないぜ。
あれを分離できれば便利なんだがな……別に家を守るのは私がやるからあの小っさいほうは要
らないんだよ。
まあ、魔力を借りるのに役に立ったりはするかもしれないが、それはあまりにもでかすぎる魔
力瓶だな。
ことあるごとに悪戯して滅茶苦茶してるようだし。
そもそも悪魔との契約なんてのは人間は命が惜しくない限りやるもんじゃないんだよ。
よっぽど悪魔のほうに気に入られてなけりゃいいことはないさ。
呼び出してすぐは良くても後でその埋めなおしがくるもんだからな。
そのときに悪魔に守ってもらえなきゃひどけりゃ魂まで消滅なんてことになり得るんだよ。
だから人間は悪魔を呼び出さない。
呼び出すのはよっぽどの馬鹿か、命が惜しくない破滅野郎か、人間以外だ。
……そういえばあいつも人間以外だったか。
どうもあいつと一緒にいると人間以外って気がしないんだよな。
最初のころはそうでもなかったが、近頃は特にな。
あれはあれで来館者がいるのがうれしいのかもしれないぜ。
話を戻そうか。
で、どうもあいつらは古くからの知り合いだとあいつら自身から聞いたんだが……こっちから
みてると会ってまだ間もないように見えるんだよな。
なぜかって?
それは悪戯だよ明智君。
む、どうも解らなそうな顔をしてるな。
よし、この名探偵ホームズが教えてあげようじゃないか。
そもそも悪戯っていうのはどういうものかわかるか?
……意地悪?それだと20点だな。
ちなみに、私の満点は60点だぜ。意味は自分で考えな。
悪戯っていうのは恋わずらいだ。
ああ、これは極端に言うとだからな。
悪戯を受けた奴はいやでもそいつを気にすることになるだろう?
それがどういった感情かは別にしてもだ、無視するなんてことはよっぽどの状態じゃないとあ
りえないだろう?
そのありえない状態じゃないのが会ってすぐに見えるってことだ。
あいつは100年くらい魔女をやってるらしいが、もしそのくらいの間ずっと悪戯を受けつづ
けてたらどうだ?
いつかからは日常になってしまってなんとも思わなくなるだろう?
同じことを繰り返してしまうからそれに対する感情が擦り切れてしまうんだよ。
私たちが息をするのと同じように思えてくるってことだな。
なんとも思わないだろう?
だからあいつらはまだ会ってそんなに経ってないんだと思うぜ。
私に言ったあの言葉は話をはぐらかすための嘘だったか、そうでなければ全く別の意味があるっ
てことだな。
何?私が本を持って帰ってるのは悪戯のつもりじゃないのかって?
……そんなことはないぜ。
な……そんなことは無いって言ってるじゃないか!
な、なんだよそのにやけ顔は……ま、まって!それはやめて! あーっ!!
……はあ、もう、いいぜ。
私は本を返してくるからな。
さあ、出てった出てった。
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