−Stage1.夕暮れの原−
−0−
秋の風吹く秋の空
茶色の空と茶色の薄
薄はゆれて風は吹く
−1−
博麗神社から大分離れた山裾。
霊夢は代美子の案内でここまで来ていた。
空は茜に染まり、赤い明かりが巫女装束を一色に染めている。
目に染みるような夕焼けが美しい。
隣には同じように紫の着物を朱に染めた代美子が並んでいた。
その横顔は少々疲れているように見えた。
それもそうだろう。
ここに来るまでに、代美子から聞いたことを思い出す。
私の住む一畳家には、幸徳の井と呼ばれる井戸があります。
水も殆どない、もう何百年も前に枯れてしまった枯れ井戸です。
ですが、その井戸には封印がかけてありました。
よほど恐ろしいものが底にあるのか、封印は何重にもかけられていました。
そして、私達梅井の座敷童には代々、その封印を守る役目がありました。
私も母からこの封印が解けぬよう、綻びを直すよう教わりました。
何が封印されているのか、封印が解けたら何が出てくるのかは聞かされませんでした。
母も中身については教わらなかったそうです。
なんの変哲もない秋の昼時。
代美子は庭木の手入れをしていた。
そんなに数の無い庭木を一本一本丁寧に手入れをしていた。
半分くらい終えたところで、休憩することにした。
そろそろおやつの時間だ。
鋏を棚に置き、柱にかけてあるエプロンをつけ、炊事場の前で考えこむ。
「今日はどんなお菓子を作ろうかな? 団子は昨日作ったし、煎餅はちょっと面倒だし……」
そうやって何を作ろうか考えている時だった。
辺りを強い妖気が覆った。
自分に向けられている妖気ではない。
だが、あまりにも強い妖気に体が自然に震え出す。
我に返り、封印に何かあったのではと急いで井戸に向かった。
廊下を走り、縁側から飛び降り、庭を走り抜け……
林の中の井戸へと走る。
……そこにいたのは一匹の妖怪だった。
走ってきた代美子に気づいた妖怪が視線を代美子に向ける。
怖かった。
脅されたわけでも、攻撃されたわけでもないのに、怖かった。
「あなたが封印したんですか?」
その声は嬉しげな、喜びの感情が混ざっていたが、代美子には恐怖しか感じられなかった。
声が、出なかった。
心臓が、苦しい。
「あなたが彼女を封印したんですか?」
もう一度妖怪が聞いてくる。
自分で意識した訳でもなく、代美子は首を横に振っていた。
「ふーん。でも、ここにいるってことは……さしずめ守り手ってところですかね。それにして
も、厳重な封印……」
その言葉ではじめて封印が無事だということに気づいた。
その場所から見たとこでは井戸の封印は、揺らぎ一つないようだった。
「あ、あなたは、なんのためにここへ来たんですか?」
やっとのことで声を出した。
声は、震えている。
「見え透いてることでしょう? 封印を解く為です。ここに封印されているのは私の友人ですし」
さらりと述べた。
「…それは、させません。」
私の役目はこの封印を守ることだから。
それだけは譲れない。
そう思うと、震えは止まった。
「これは呪縛のレベルですね……やめておきなさい。絶対敵いませんから」
ため息を吐きながら妖怪が言う。
わかっている。
だが、それでも止めなきゃいけないという思いが強い。
代美子は妖怪に向けて術を張った。
結果はお分かりだと思いますが、私の負けでした。
私は軽くあしらわれ、かなり離れたところまで飛ばされました。
そして、地震。
封印が壊され始めたのは明らかでした。
そして博麗神社までやってきたということだ。
半端ではない。
霊夢はこの少女を少し哀れに思った。
−2−
霊夢と代美子はあいも変わらず、夕焼けの中を飛ぶ。
代美子の速度は霊夢よりも遅く、霊夢はそれにあわせて飛んでいる。
もし相方が魔理沙なら逆の立場だっただろう。
だから、霊夢には考え事をする余裕があった。
代美子の話から考えると、封印が壊れたから地震が起こったのよね……
あ、地震が起こるほどの力で封印を壊したってのもありか。
うーん、どっちにしろ『封印壊れる=揺れる』だからこれはいいとして…
「わぁー!」
突然代美子が大声を上げる。
考え事をしていた霊夢は慌てて陰陽玉を取り出し、玉串をもって臨戦体制。
「なに!?なんか出た!?」
「あ、えーと、とりあえず何も出てきてませんよー」(汗
「へ……?」(呆
「ほら、下見てみて下さいよ。凄いですよ!」
言われるままに下を見下ろす。
ああ、なるほど。
早とちりもいいとこだ、慌てた自分が凄く間抜けに見える。
陰陽玉と玉串を袖にしまい、ゆっくりと下に降りていく。
葉を落とした木でいっぱいだった森は、いつのまにか薄の原に変わっていた。
一面、黄金色の海。
しばし、魅入られる。
「すっごーい!」
代美子は薄の原を駆けまわっていた。
……どこにこんな元気があったのだろう
「っていうか、急がなくていいの?」(苦笑
はしゃいでいた代美子が止まる。
うーん、と考えこんでいる
凄く考えこんでいる。
端から見ても名残惜しそうだった。
「えーと……休憩ってことで、だめですか?」
代美子は申し訳なさそうな顔をしたつもりなのだろうが、思いっきりにやけていた。
ちょっと吹き出しそうなほど面白い顔だった。
「じゃ、休憩ね。私ももうちょっとこの景色を見ていたいし」
面白い顔に笑顔で返す。
すると代美子は満面の笑みで金色の絨毯を走っていった。
「どう見ても、休んでないわよね」(笑
もしかしたら座敷童は自然に触れることで元気になるのかもしれない。
……多分そんなことはないが
ともあれ、休憩と言ったのだ。
思いっきり休むことにしよう。
「本当、綺麗ねー。こんなところがあるなんて知らなかったわ」
夕日に輝く薄。
秋だけの特権だ。
「今度お祭りをやる時はここでやろうかしら」
魔理沙やレミリアやみんなを呼んで。
あと、あの桜の幽霊娘にも秋の良さを教えてやろう。
そんなことを考えながら思いっきり手足を伸ばして背中から薄の絨毯に倒れこむ。
「むぎゅ!」
何かを背中で押しつぶした。
先客がいたようだ。
それより、むぎゅって叫び声って凄く珍しい気がする。
「……叫び声を上げたということは、生き物よね」
ゆっくりと腰を上げて、後ろを振り向く。
涙目の妖精と目が合った。
眉が吊りあがっている。
怒っているのは間違いない。
問答無用で攻撃開始。
「ごめんごめんごめんー!」
全速力で逃げ回る。
謝っても許してくれるはずもなく、妖精の放つ弾は凄い勢いで霊夢を追い回す。
まあ、妖精程度が本気になっても霊夢にはあんまり問題ではない。
しかし、これは一方的に自分が悪い。
さあ、どうしようどうしようと考えながら弾幕を間を縫ってかわす。
と、
「みぎゃー!」
足に柔らかい感触。
本日2度目。
踏難の相でも出ていただろうか?
とりあえずこの危機を脱したら占ってみようと思いつつ、全力で霊夢は逃げ回った。
−3−
小さな影はひた走る。
黄金の海を掻き分けて、短な黒髪を風になびかせ、ひた走る。
何かに追われているわけではなく、己の意思で、心底楽しそうに。
どれだけ走ろうと変わらない景色。それが意味もなく楽しかった。
「はふー。楽しかったー。」
自然のエネルギーで元気になった(?)代美子はそろそろ休憩を終わりにしたほうがいいかな?
と思った。
自分が十分元気になったこともその原因だが、それより気になることがある。
霊夢のことである。
怒ってはいないだろうか?
あの様子では怒ってはいない感じだったが……
よく考えてみよう。
まず、いきなり人様の家に侵入し、ロクな説明もせずについて来てくれませんか?
そして、愚痴混じりの説明を聞かせ、半ば強引に休憩。
「……実は私、とても失礼なことしてるんですね」(汗
でもそれは緊急事態のこともあるし、もともと霊夢さんは地震を鎮めようとする気だったようだ
し……休憩は関係ないけど。
……許してもらえるだろうというのは、やはり私が甘いのかな?
霊夢が今、何をしているか代美子は知らない。
知ることが出来ない。
代美子と霊夢は繋がっているわけでも互いを括ってあるわけでもない。
そう考えるとますます不安になってきた。
もしかしたら一人で先に行ってるかもしれない。
……いや、それはないだろう。
霊夢は一畳家への道を知らない。
それに、
『自分でどうしようも出来ない時には博麗神社に頼め』
と伝えられてきた所の巫女様がそんな冷たい人のはずがない。
と自分に言い聞かせるが、それでも安心できない。
代美子は小心者なのだ。
「なんにしても、早く戻ったほうがいいですよね」(汗
不安が大きい分独り言が多くなっている。
実感しながら、代美子は空へ舞いあがった。
空に上がると、薄に邪魔されることもなく視界が広がる。
そして、降下する。
……高く上がりすぎて見えなかった。
程なくして、霊夢を見つけたが、その足元から一帯は薄が軒並み倒れている。
そして辺りには…
虫のような触角をつけた妖精がうつぶせに倒れている。
右手は紅白、とダイイングメッセージを残していた。
ふわふわの服に身を包んだ妖精が頭から、まるで杭のように薄の海に突き刺さっている。
その他にも大量の妖精が地に倒れ伏していた。
もう一度霊夢に視線を戻す。
さっきは服が保護色となってよく解らなかったが
その手は
赤く
染まっていた
いや、手だけではない。
服も所々鮮やかな赤に染まっている。
返り血を浴びたように。
そして霊夢は、その手についた赤いものを舌でなめ上げようとして、止まる。
それは、躊躇しているようであった。
これを舐めるともう戻れなくなる、というように……
手が震えている。
結局霊夢は、舐めようとしたその手をちり紙で拭った。
これから導き出される答えとは!?
(ま、まさか霊夢さん、私の行動にむしゃくしゃして、辺りにいた妖精達を……!? しかも吸
血鬼!?)
たまたま霊夢の前を通りすぎた妖精が餌食になり、やりすぎて霊夢はそれを殺してしまう。
そのあだ討ちにと他の妖精がよってきて、歯止めの利かなくなった霊夢は……惨劇。
冷や汗が頬を伝う。
ここで見つかると…私まで殺される!!
ひいぃ、とオーバーリアクションを取っていると、
「まー、派手にやったものね。騒がしいからと思ってきてみれば……」
そこには首からボロ布をかけている人影があった。
妖気からして、妖怪だろう。
「大量虐殺の犯人として、あんたを成敗するわ!」
「誰が大量虐殺したのよ。あなた?」
「フッ、その姿で言い逃れは出来なくてよ?それに私様はいじめることはあっても殺すことなん
て滅多にないわよ」
「あのー、霊夢さん、さすがに殺人(?)はよくないと……」
「だから殺してないってば。……って戻ってきてたのね。まあよく見てみなさいよ」
言われて、妖怪と一緒に妖精の顔を覗きこむ。
「あ…カレナさん……か、仇を……ガクリ」
しっかり生きてるようだ。
他の妖精もぴくぴくしてたりはするが命に別状はないようだ。
「ほら、大丈夫じゃない。」
……では、あの霊夢さんの行動は?
というか、なんでこんなことに?
頭の中を疑問符が駆け巡る。
「で、でも、その血は!?」
「よく見てみなさい。これは……ケチャップよ」
ケチャップ…トマトをペースト状にして調味料を加えたもの。
……そう言われれば、そんな匂いがしないでもない。
「まだ安心できないわ!そうね、ちょっと舐めさせて頂戴」
「……まあいいわ。ほら」
カレナが霊夢のほっぺたについた赤いものを掬い取って口に入れる。
「こ、これは!このどろりとした食感、生ぬるい温度、そしてこの味! ……ケチャップね」
「当たり前よ。血だったら血って言うに決まってるでしょ」
「じゃ、じゃあなんでケチャップが!? なんで霊夢さんは舐めるのを躊躇してたんですか!?」
(そこから見てたのか)「答えはこいつよ!」
そう言って霊夢は自分に足元にうつぶせになっている妖精を持ち上げた。
やはりこの妖精も胸の辺りを中心に、かなり派手に赤く染まっていた。
霊夢が手を突っ込み妖精の胸を漁る。
そして取り出したのは、破れたケチャップの空容器が…2つ。
「私の推理からすると、この妖精は胸を大きく見せるためにこのケチャップを胸に入れていたの
よ! そう、それは無駄なこととわかっていても一度はやってしまう虚偽……」
「確かに、私様にも覚えがあるわね……50年くらい前だったかしら」
「で、その妖精に霊夢さんの攻撃がヒットして……」
「ケチャップまみれってわけ。さすがにちょっと放心しちゃったわよ。舐めるの躊躇したのは傷
んでそうだったから」
へ?傷んで…?
「ぐぁ…お、お腹が……」(滝汗
「………」(汗
「あ、舐めちゃったんだっけ。まあ、妖怪だしそれくらい大丈夫でしょ?」
(霊夢さんって、結構酷い)
「大丈夫な訳ないでしょー!毎年食中毒にかかってる私様を見くびるなー!」
と、弾幕張ってくるカレナ。
こういうことに慣れている所為か、霊夢は難なく避けて距離をあける。
代美子はとりあえず霊夢のそばに移動する。
「何よ!やっぱり元気じゃない!」
「危ないじゃないですかー!」
「うるさー、いたた……こうなったら敵討ちも兼ねて恨み晴らしてやるわー!!」
また弾幕がはじまる。
霊夢の行くところ弾幕あり、である。
−4−
波立つ薄の原。
風に吹かれて揺れているのだが、風が普通ではない。
妖弾と針の群れが飛び交っている。
それによって生み出された風だった。
緩急激しく、弾幕合戦の風が吹いている。
「結構、狙いは甘いのね」
「痛みで狙いが定まらないだけよ!」
二人は空中で攻撃を交わしている。
戦況は思いっきり霊夢が有利だった。
自分で言っている通り、痛みで絶不調なのが端から見てもわかる。
ふらふらとした動きの所為で霊夢の攻撃はかわすことができず、狙いが定まらないカレナの攻撃
は霊夢には当たらず。
「えーい、もう!ちょこまかとぉ!」
「予想以上に強烈に傷んでたようね……」(汗
的確に攻撃を避ける霊夢。
それに対し、ばらばらと妖弾を蒔くカレナ。
前者は優雅、後者は乱雑。
そう言い表すことができるような戦い。
「ばらばらと蒔いてるだけじゃ当たらないわよ。見栄えも悪いし」
「そんなことわかってるわよ!こうなったら……あきのおとずれ くさきにみえし とおきやま
よりふかきかぜふく『草符、ウィザーウインド』!」
「スペルカード…?」
そうカレナが詠ったとたん、風がふきつける。
それは激しく枯草を、木の葉を舞いあがらせ、横から挟みこむように霊夢を狙う。
強い風に乗った葉は相手に傷を負わせるのに十分な切れ味を持っている。
……普通の人間ならば。
霊夢に対してそれは、殆ど意味を成さない。
危険を肌で感じているように、吹き荒れている風の隙間を抜け、カレナに向けて手にした針を飛
ばす。
偶に当たりそうになった草なども陰陽玉が叩き落とす。
しばらくして、草の嵐が止んだ頃には、無傷の霊夢とぼろぼろのカレナの姿があった。
「あんた信じらんないわね……」
「お褒めにいただき恐悦至極。風を操るなんて、結構レベルの高い妖怪かしら?」
無傷の自分に対して、ぼろぼろの相手。
霊夢自身気づいてないようだが、この状況でそれは挑発と変わらない。
「私様を馬鹿にするなー!」
先程のばら撒きとは打って変わって、今度は妖力の玉が連なって、霊夢めがけて放たれる。
風がうねる様を模したような攻撃だ。
「わっ!」
危なく当たりかけた霊夢はさっと飛び退く。
が、そこに狙いをすましたかのように小さな妖力弾が当たった。
軽く空中を飛ばされる霊夢。
「痛た……。小さすぎて見えなかったかしら?」
その様子にカレナは薄く笑う。
弱点を見つけたとでも言うかのように。
「すすきのゆれしうすぐろきかげ ゆうきにみゆりてこわきこわき かげはまことにゆうきとな
りて おびえしたまをねらう『影符、バグベアーパンパスグラス』!」
再び詠うカレナ。
今度は空中に靄がかかったように見えるが、カレナははっきりと見える。
風も吹いてくる様子はない。
「目くらましってわけじゃなさそうね。ただの飾りってわけじゃないわよね…?」
「すぐにでもわかるわよ。」
そう言い、先程と同じように妖弾を放つカレナ。
連なる妖弾は先程と同じように霊夢に向かってくる。
「さっきと同じ?芸がないわね。」
そう言いながらも靄が気になって仕方がない。
先程と似たような攻撃を今度は慌てることもなくかわす。
そこで、靄の中から弾が飛んでくる。
霊夢 「やっぱりそういうことなのね。」
予測の範囲内だ。
難なく避けれる。
霊夢 「って、あれ?」
そこには何もなかった。
いや、靄があるだけだった。
勘が外れた、狐につままれたような感覚。
その隙をついて大きな妖弾が飛んできていた。
慌てて動き、すんでのところでかわす。
そして前に向き直ると、目の前には妖弾があった。
「え?」
それはさっき飛んできたと見間違えた方向。
靄しかなかった方向から飛んできていた。
どういうことかわからぬまま、反応に任せて避けようとする。
(ダメ、間に合わない!)
とっさに目を瞑る。
目の前で妖弾がはじけた音がした。
−5−
思った時には、既に私は飛び出していた。
体がはじけた妖気で包まれる。
結界を張ろうとも、もう間に合わない。
(あちゃー…。甘かったのは私ってこと?)
目を瞑って諦めモード。
そのまま1秒…2秒…
一向に来るはずの衝撃が来ない。
それとは別の肩をつかまれて激しく揺さぶられるような衝撃は来るが…
「目をあけて下さい、霊夢さん!」
「って、代美子?あんたなんでここに!? 相手にならないから下がってるっていったのあんた
じゃない」
「あの、それなんですけど……思いついたんです、役に立つ方法! それで、さっきまで霊力溜
めてたんですけど、それを霊夢さんに使ってもらったらどうかなって……」
「私をあんたの霊力で強化するってことね?」
「えーと、つまりそういうことです」
「……(わなわな)敵を目の前にくっちゃべってんじゃないわよあんた達ー!」(怒
「あ、そうだったわね。」
再び襲い来る妖弾。
あたりを包んでいる靄の中からも一瞬妖弾が見える。
一つの瞬きでその位置をすべて覚える。
(さっきと同じね。十分かわせるわ。)
「はっ!」
避けようとしたところに代美子の一喝。
それと共に、こっちへ飛んでくる妖弾が結界ではじかれる。
「……あなた十分戦えるじゃないの」(汗
「えーと、守りだけなら自身があります」(照
「でも、その結界は自分を守る為に使って頂戴」
「え?なんで……」
「気に入らないわねー!さっさと食らいなさいよ!」
代美子の言葉をさえぎって、カレナの叫びと共に次々と繰り出される妖弾。
しかし、一回覚えてしまえば後は楽なもの。
霊夢には一つとして当たらない。
「す、凄いです……」
「なんであれがかわせるのよ。」
「こういうことよ。さ、一気に決めるわよ、ついて来なさい!」
弾の嵐をかいくぐってカレナに近づいて行く霊夢。
必死にカレナは妖弾を放つも、やはり当たらない。
そして、必勝の距離。
「代美子、霊力借りるわよ!」
手にした針に、代美子の霊力を乗せ、放つ。
絶え間なく、逃げ場を与えぬように。
確実に、仕留めるように。
空を青い閃光が走る。
しかしカレナは、針が当たる前に落ちた。
ひゅ〜〜〜
という擬音が似合うような、自然落下そのものの落ち方。
「「へ?」」
針を放った霊夢も唖然。
霊力を込めた代美子も唖然。
ぼすっ、という音を立ててススキの原に沈むカレナ。
とりあえず二人は下に降りてみることにした。
そして恐る恐るカレナの顔を覗きこむ。
ぐるぐると目を回していた。
頭に大きなたんこぶができていた。
落ちる途中に当たったのであろう針が刺さっていた。
そして、カレナのそばにある『馬鹿娘』という紙の張られた石。
「謎ね」
「謎ですね」
ガバッとカレナが飛び起きる。
「私様に何が!? ここは何処!? 父上様は!? 頭痛っ!?」
「相当混乱してるようね」
「滅茶苦茶ですね」
「って、なんであんた達こんな近くに? もしかして、私様が…負けた?」
「そうと言えばそうだし…そうでも無い気……」(汗
「そうよ!あなたは私達に負けたの!あなたがここに倒れてるのが何よりの証拠!」
代美子の言葉をかき消すように大声を出す霊夢。
「そうよね?」
代美子の方を向き同意を強制する霊夢。
「で、でも私達の……」
「私達の勝ち。OKね?」
「……ハイ」(涙目
小声なのに有無をいわせぬ迫力があった。
「う〜?何か怪しいわね?……ま、いっか」
倒れてるのはその通りなのだし、と納得するカレナ。
「そういえば、腹痛は?」
「……暴れたら治っちゃったみたいね」
「じゃ、治療代」
そう言って手を差し出す。
「原因もあなただから差し引きゼロよ」
差し出された手をつかむカレナ。
霊夢は手を引っ張り、カレナを立たせる。
治療代など、端から貰う気は無い。
「…そういうことだったら早くいってよね。地震の方はこっちも迷惑してたんだから」
一通りの説明の後、カレナはため息をついた。
「妖精の方は喧嘩両成敗ってことで」
「端から見たら一方的な虐殺でしたけどね」(笑
「五月蝿い」
妖精は皆、気持ち良さそうに寝ている。
たまに鼾も聞こえてくる。
「んじゃ、鎮圧がんばってね」
「期待して待ってなさい」
二人は飛び去っていく。
再び一畳家へ向かって。
「休憩の筈だったのに疲れちゃったわね」
「そうですねー」
疲れているはずの二人の表情は相違いなく、笑顔であった。
−Stage1.夕暮れの原−
Stage Clear
お・ま・け
「ふー、大変だったわね」
飛び去っていく二人を見つめながら、微かな笑いを浮かべるカレナ。
(弾幕合戦なんて久しぶりだったわね。あー楽しかった。)「ほら、あんた達おきなさーい!」
あたりを見まわしながら妖精達を起こす。
と、そこで目に入ってくる石。
「……コ、コレハ?」(汗
「この馬鹿娘ェ…。博麗に手を出すとは……」(怒
背中から聞こえてくる地を震わすような声。
振りかえれない。
あたりに寝ていたはずの妖精達は、いつのまにか姿を消している。
「ち、父上様ー!?」(絶叫
カレナの地獄はまだ始まったばかりであった。
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